『英語の言葉づかい』(抜粋)
〜文法を超え文化の枠組みへ〜

ここでは本文の一部を抜粋してご紹介します。



丁寧性に寄与する英文法



youの代わりのwe


 医者や看護婦や付添い人などは、患者に対するとき‘you’ではなく‘we’と呼ぶことがあります。‘you’と言って患者一人のこととして突き放さない思いやりからでしょう。医者や看護婦などと患者の関係は病気と共にたたかう仲間あるという連帯意識を示すことによって患者の不安を和らげようとするものです。


      ‘How do we feel?’ the doctor said.
      「どんな具合ですか?」と医者は言った。
      ‘Why don't we use the bedpan,’ said the nurse.
      「おまるをお使いになったらいかがですか」と看護婦は言った。
      We need to go to the toilet, don't we?
      おトイレに行かなくていいですか?


‘we’のこの用法は、教師が学生を批判したり親が子供を嗜めるようなときにもよく使われます。批判される人の中に聞き手のyouだけでなく話し手の‘I’も含めることによって相手への批判のきびしさを少し和らげるのです。文脈の説明は省略しますが次の英文の‘we’はいずれも‘you’の意味で使われたものです。


      We should not do things like that.
      こんなことはすべきではないのよ。
      We know that's naughty, don't we?
      それはお行儀の悪いことよ、分ってるわね?
      We neglected our duties.
      やるべきことを怠りましたね。

<中略>


he, sheでなく名前か名詞を使う


he, sheは文法上の性 (gender) 以外は何の情報も与えない単なる記号に過ぎません。したがって本人が聞こえる範囲のところで、その人を指して何の敬意性もない記号みたいなhe, sheという語を使うのは失礼です。英語圏にはこのことを子供に教える“What’s she? The cat’s mother?” (“she”って誰のこと?猫の母親のこと?) という格言のような表現があるそうです。つまり子猫には母親の聞こえるところで“Don’t bother me. Find her.”(うるさいね。自分の親の所へ行きなさい) と言ってもいいが、人間の場合には本人の聞こえる所で“he, she”を使ってはいけないと英米の子供たちは幼いときから教えられてるわけです。

<中略>

 ところが“he, she”を用いて人を指してはいけないのは本人が聞こえる範囲だけではないようです。本人がいないところでも失礼であることを示す例がErich Segalの小説Love Story (1970)に見られます。父親の猛反対を押し切って学生結婚したOliverは生活に苦労していますが、間もなく音楽教師のアルバイトをしていた妻Jenniferが白血病であることが分かります。最高の医療を受けさせたいOliverは父親を訪ね借金の申し入れをします。そのとき父親はJenniferのことを“she”と言います。するとOliverは即座に「彼女」なんて言わないでくださいと父に抗議します。


      “And doesn't she teach too?” he asked.
      “Don't call her ‘she’ , ” I said.
      “Doesn't Jennifer teach?” he asked politely.
      「で彼女も働いているのじゃないのか?」と父が訊いた。
      「あの人のことを“彼女”なんて言わないでください」と僕は言った。
      「ジェニファーも働いているんじゃないのか?」と父は丁寧に問い直した。


 Jenniferは病床にありこの場面にはもちろんいないのです。上の本題に入る直前での父子の会話の中でJenniferのことは一度話題に出ているのです。にもかかわらずここで“she”をもってJenniferに言及するのは失礼なことであることを父も息子も承知していることがよく分かります。


※つづきは本書をご覧ください※



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