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国連難民高等弁務官だった緒方貞子さんは「世界へ出ていく若者たちへ」と題した一文の中で外国語学習について次のように述べておられます。 「国際社会では言葉はとてもたいせつだ。しっかりした言語能力がなけ れば、実のある活動はできない。自分の意思を伝えたり、用を足す手段 としてだけに考えず、相手の文化を学ぶ材料だととらえるべきだ。さま ざまな言い回しに、その言語を生んだ文化がそのまま表れている。言葉 とは文化であることを自覚して学び、使うことが必要だ。」( 朝日新聞、 「21世紀への提言」 1997.8.31.) これは21世紀のわが国における英語教育に向けたまさに正鵠をえた指摘です。たとえば、‘God’という英語があります。日本語にも「神」という語があります。しかし「God = 神 」という公式は成り立ちません。英米人はGodを日本人なら「あらっ!」「くそっ!」「ちきしょう!」という文脈で使うことがあるからです。God, I don't know.(あらっ、知らないわよ!)/ God, I hate her.(くそっ、嫌な女だ)/ God, I will kill her. (ちきしょう、あの女ぶっ殺してやる) のように使うのです。となりますと英米人がもっているGodの概念とわたしたち日本人が抱いている「神」の概念はかなり異質な文化を背負っていると考えなければなりません。 英米人にGeorge Bushという人があり、日本人にも「藪 譲治」という人がいます。そしてGeorgeだけで本人を呼ぶことがあり「譲治」だけで呼ぶこともあります。しかし、だからと言って「ファースト・ネーム呼び = 呼び捨て」という公式は成り立ちません。アメリカ社会では自分の父親や恩師や上司など目上の人を、ある時期からファースト・ネームで本人に直接呼びかけることがあるからです。この事から見てもアメリカ社会でのファースト・ネーム呼びは日本社会の「呼び捨て」 とはまったく異質な文化であることが察せられます。 日本語には敬語があるが英語にはないといわれています。なるほど日本語の「ご」や「お」などの敬語接頭辞や「様」や「ました」に当たる敬語としての名詞や助詞などは英語にありません。したがて英語では「きみの両親に会った」(I met your parents.) と区別して「あなたのご両親様にお目にかかりました」という敬語的な言い方はできないだろうということにはなりません。英語にはI had the privilege of meeting your parents.という立派な敬意表現があります。「粗品ですが何とぞご笑納ください」も英語では日本語にまさるとも劣らぬYou will honor me if you will accept my small present.という相手への敬意にみちた表現があります。しかし発想と表現形式はまったく異なります。 これらの例から見ても、英語の学習は英単語の日本語訳や英文法の知識だけでは真の理解から遠いのは明らかです。「文法」の枠組みを超えて「文化」の枠組みへのアプローチが求められるゆえんです。 本書は、従来文法中心の日本の英語教育がほとんど触れることのなかった英語のさまざまな言葉づかいを取り上げて、日英対照文化比較の視点から日本語と英語の言語的特色に光を当てようとするものです。 2004年 秋 藤井 健三 (本書のはしがきより) |
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[1]立読みコーナー <本文抜粋>
1 「ファースト・ネーム呼び」 --> Check it out! 2 「丁寧製に寄与する英文法」 --> Check it out! 3 「ぼかしことば」 --> Check it out! |
[3]本書の目次
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